2015年09月23日

研究費問題(4);日本の研究パワーと研究費

 今年のサイエンスアゴラ・研究問題ワークショップ「本音で語る」では、研究費の問題を取り上げます。
 例年同様、問題群の背景や構造を、私見と腕力の許す範囲で、大雑把に整理してみたいと思います。
 今回はその6回シリーズの4回目です。

 第4回の今回は、昨今ネット上で話題のあるブログの内容をふまえて、日本の研究パワーが低下傾向にある問題と、その背景について考えます。

 研究パワーが低下傾向? この 10 年間は日本から自然科学3分野のノーベル賞受賞者が続々と輩出されているではないか! 日本の科学研究の水準は高く、多くの優れた若手も活躍して、優れた成果を多く出し続けている。どこが研究パワー低下なのか? そうお考えの方は、きっと多いと思います。

 しかし、実は現在の日本のおかれた危機的状況を訴える声はあり、その実態を鋭くあぶり出しています。
 その一部を挙げておきます。

・インターネットで読み解く
 第435回「2016年に国立大の研究崩壊へ引き金が引かれる
 第479回「無残な科学技術立国、人口当たり論文数37位転落
 第480回「瓦解していく科学技術立国、博士進学者は激減
 第488回「国立大の2016年研究崩壊に在京メディア無理解

・サイエンスポータル
 論文数減少と国立大学法人化の関係

 上記の記事で紹介されている豊田長康さんは、鈴鹿医療科学大学の学長です。国立大学財務・経営センターの理事長時代になさった独自研究が、波紋を呼んでいます。

運営費交付金削減による国立大学への影響・評価に関する研究
LINK to the page
(豊田さんのブログ記事における言及はこちらに)

ある医療系大学長のつぼやき
民間企業人は科学技術政策の「選択と集中」をどう考えているのか
(追記 at 11/5, 23:45; こんな記事もあります。
はたして日本は今後もノーベル賞をとれるのか?

 豊田さんのデータによる、世界各国の論文数が日本だけ減少していることを示すグラフや、論文数シェア(=占有率)の異常な低下を示すグラフは、日本の研究パワーの低下をハッキリ示しています。危機感を感じない方がおかしいと云うべきでしょう。
 主要な論点を抽出すると、概略以下の通りです。

・国公立大学では、大学1つあたり、研究者1人あたり、科研費採択1件あたりの論文数が減少傾向。
・国公立大学間の格差もあり、医学部付属病院を抱えているところは財政面で比較的マシ。
・しかし、総じて経営に苦しんでいる大学が多く、旧帝大クラスでも運営交付金削減を付属病院収入や各種競争的資金で穴埋めして、どうにか経営維持している状況。
・国民1万人あたり、GDP あたりの研究者数、研究予算、論文数は世界各国でも下位に属し、しかも近年は論文数が低落傾向。
・論文数の減少傾向は顕著で、先進国のうち論文数が減っているのは日本だけ。
・日本の研究者が研究に従事できる時間は減少傾向。

 重要な論点は豊田さんの独自研究に多く含まれているので、是非ご覧頂ければと思います。

 他にも、日本の科学技術政策に関する主要な論客は何人かおられますが、もうお1人、立命館大学の兵藤友博さんを挙げておきます。

立命館大学 日本の科学・技術政策
科学・技術政策は日本の科学・技術を押し上げるものになっているのか

 この上記の論説によれば、科学技術政策の策定に当たり、政財界(特に経団連など)の意向が大きく反映され、“科学技術イノベーションの推進”の御旗のもとに、産業政策の振興と同一視せんばかりの状況があるようです。
 有り体に言えば、「研究資金の選択と集中により、産業経済に於ける日本の国際競争力を高める。そのために、重点的に取り組む領域を定め、産学官連携により効率的なイノベーションを推進する。また、人間力と高度職業能力のある人材を生み出せる大学にするために、海外からの人材招聘や教育内容の改革を行う」という感じで、ビジネスの論理により教育と研究の“効率化”と“高出力化”が目指されている印象です。

 その結果が、実際には研究現場における金回りの悪さや、(それを論文数だけで評価することの原理的な限界は認めつつも)日本全体及び各大学の研究パワーの低下、研究現場の運営困難や過度の多忙に結びついている大きな構造がある...と、どうやら言えそうです。

 ただ、救いがあるとすれば、上記の豊田さんのブログ記事「民間企業人は科学技術政策の『選択と集中』をどう考えているのか」にも記載があるとおり、民間企業や財界関係者の中にも危機意識が芽生えていることです。中には選択と集中による効率化という考え方そのものに対する批判(ないし自己批判)とも取れる民間企業関係者のご意見もあるようで、研究者コミュニティの意識がそうであるように、政財界の認識もある程度の多様性はあるようです。

 文部科学省もさすがに危機感を抱いてはいるようで、国立大学経営力戦略という文書の中で提言を出しています。財務基盤の強化や教員の活躍などを文言として含め、前者の財政云々に関しては収益事業の明確化、寄付金収入拡大、民間との連携拡大に関して、後者の教員の活躍に関してはテニュアトラック制の拡大や年俸制などに関して、それぞれ言及があります。しかし、財界や産業界の意向を大きくふまえた旧態依然?のイノベーション推進戦略に乗っかるような内容も相変わらず目立ち、ポスドク問題の政策的失敗があるにも関わらず新たな大学院の創設を見込むなど、危機感による焦りが明後日の方向を向いている印象は拭えません。

 シリーズ第2回で、こんなことを書きました。

科研費応募の手間が増えることは、研究者にとって研究や教育にかける手間と時間が減ることを意味します。
JST や AMED 等の大型予算ともなれば、申請や報告などの書類仕事の負担は否が応にも増すことになります。(中略)個人が研究の片手間で行うのは、現実的にはほぼ無理です。

 上記で述べた研究パワーの低下に、研究者の研究に従事する時間が減っている現状が影響しているのはほぼ間違いなく、その構造的要因の一つとして、競争的研究資金の国策的推進による研究現場の事務的負担増大が影響している可能性は大いにあると云って良いでしょう。実際、JST 研究開発戦略センターの調査結果「我が国における研究費制度のあり方に関するアンケート調査」によると、競争的資金を獲得した研究者たちの悲痛な声が聞こえてくるようです。

 今まさに多忙で本業に支障が発生し、困っている研究者をどうするか? ここまで国際競争力を失いつつある現状を招いた事態をどうやって立て直していくのか? 元々、効率性で把握することのなじまない教育や研究なる営みを担う大学や研究機関を、ビジネスの視点で制御しようとする発想それ自体に対する批判的検討や反省はあるのか? 大学や研究機関の運営も経済現象の一部であるとは言え、費用対効果の観点からその運営を考えてみると、短期的なものから中長期的なものまで、経済的な、或いは政策論的な、様々な問題が持ち上がっているように見えます。

 では、そうした問題群はどのようにして生じてきたのでしょうか?
 シリーズ第5回に続きます。
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2015年09月22日

研究費問題(3);民間の研究費

 今年のサイエンスアゴラ・研究問題ワークショップ「本音で語る」では、研究費の問題を取り上げます。
 例年同様、問題群の背景や構造を、私見と腕力の許す範囲で、大雑把に整理してみたいと思います。
 今回はその6回シリーズの3回目です。

 第3回の今回は、政府各省庁や各種国研(NEDO や AMED、NIMS 等)、科学技術振興機構(JST)以外の機関が用意している、民間の研究費について考えます。

1)民間研究費の例
 民間でも研究費助成を行っている企業及び財団などは、その一部を列挙するだけでもこんなにあります。

大川情報通信基金
・公益財団法人立石科学技術振興財団 研究助成(A)(B)(C)
武田科学振興財団
向科学技術振興財団
双葉電子記念財団
テレコム先端技術研究支援センター(SCAT)

国際科学技術財団
稲森財団
・公益財団法人日本科学協会 笹川科学研究助成
サントリー生命科学財団
・株式会社リバネス リバネス研究費

内藤記念科学振興財団
公益財団法人ファイザーヘルスリサーチ振興財団
・グラクソ・スミスクライン株式会社 GSKジャパン研究助成
・武田薬品工業株式会社
 医薬研究本部 研究アライアンスグループ  研究公募プログラムCOCKPI-T(コックピット)
ノバルティス科学振興財団

トヨタ財団 公益助成プログラム
旭硝子財団
公益財団法人クリタ水・環境科学振興財団
加藤記念バイオサイエンス振興財団
花王芸術科学財団
LIXIL住生活財団 若手研究助成
矢崎科学技術振興記念財団

野村財団
公益財団法人三菱UFJ信託奨学財団
・住友信託銀行 募集案内一覧(奨学金・研究助成金等)

 各大学でもその膨大な一覧をまとめて公開していますが、早稲田大学UMIN の例を挙げておきます。

2)民間研究費の規模(独自資金と助成金交付)
 実は、日本の研究費の総額にしめる企業研究費の割合は、国や地方自治体のそれを大きく上回る事実があります。

 総務庁統計局の「統計で見る日本の科学技術研究」(平成 26 年版)によると、企業、大学等(各種の独法研究機関を含む)、非営利団体及び公的機関の3つの研究主体の研究費の経時推移は、圧倒的に企業のそれが多く、1994(平成6)〜2013(平成 23)年の間で研究費総額を比較して、企業の研究費総額は大学等の3〜4倍で推移しています。2013 年の金額で、企業の研究費総額は 12 兆 9,620 億円、大学等は 3 兆 6,997 億円です。

 しかし、企業研究費の殆どは自社調達で、学部資金として大学などに供出している金額は総額の2%あまりです(こちらを参照)。それでも、2010(平成 22)年当時で、大学などに拠出された研究費の総額は 3,453 億円。国立大学の運営費交付金の総額1兆円余り、科研費の総額約 2,000 億円、私立大学の私学助成金総額 3,000 億円余りと比べても、総額としてかなりの金額になります。

3)民間研究費の功罪
 民間企業及び企業が併設する財団による研究助成と、民間企業が大学等と共同研究及び寄付など資金供与する場合に、分けて考えます。

 民間研究助成の拡充や在りようの改善を求める声は、小さいながらもあります。
 だいぶ古いデータになりますが、1991(平成3)年(...w)に発表された調査報告で、「日本の民間研究助成の現状と問題点」と題する文献があります。オープンアクセスで誰でも読めます。その主な論点を一部拾ってみると、以下の通りです。
・民間研究助成の持つ意義は、第1に民間公益活動(フィランソロピー)、第2に多元主義、第3に研究資金源の多様化。
・科研費の比較で云うと、科研費は採択率や使途の制限などの限界があるが、民間財団では私立大学への支給が厚めで、使徒も多様である。しかしながら、国立大学、特に旧帝大に支給される比率は高い。
・科研費は全ての学問分野を対象とするが、民間助成は自然科学の応用研究及び開発に支給対象が偏っている。医学や工学に対する支給が厚めで、基礎科学や人文社会系は比較的手薄である。
・助成1件あたりの支給額の大半が 250 万円以下と、比較的少額である。
・科研費獲得実績のない人も、多くが助成金を得ている。
 古い文献ゆえ、現状と合わない面もありますが(例えば使途の制限や対象範囲など)、現在の情勢と照らし合わせて、そう大きく外していない論点もあると思われます。筆者からどれが?とは敢えて申しません。

 他方で、企業側の研究開発費を大学との共同研究に供している事例も少なからずあり、企業の研究部門が大学及び国研と共同研究を行ったり、大学に寄付講座を設置したりする事例も増えてきています。大学側の研究活動を活発化してきている一面もある一方で、大学にとっての学問の自由をどう維持していくか?という学問的自治の問題や、研究成果の発生に伴う知的財産権の管理や運用という新たな問題群の発生、利益相反問題など、新たな悩みの種も出てきています。
 利益相反に関しては、大学等の側も手を打っている場合が増えてきています(東北大東大九州大の例を挙げておきます)。しかし、昨今発覚した各種の研究不正の中に利益相反が関係する事例(ディオバン問題タシグナ問題J-ADNI 問題)があったり、処方薬タミフルにまつわる利益相反の案件があったりなど、研究公正の維持において難しさを感じさせる事例もあります。

 民間の研究費だからといって、直ちに学問的自治や利益相反、知財問題などで大学に悪影響があるというものでもないでしょう。大学の研究費や運営財源の多様化(基金の収入源多様化を含む)は、大学自身の持続可能性を考えれば、必ずしも悪いことではないでしょう。しかし、左記のこうした問題を生じうる実状と、実際に発生した問題を直視しながら、どのように民間の研究資金を獲得し、また社会とどのように相互作用しながら財源と「対外的な知と人の供出」を維持していくかを考えていくことは、今後重要になっていくと思われます。

 シリーズ第4回に続きます。
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2015年09月21日

研究費問題(2);研究費の“選択と集中”

 今年のサイエンスアゴラ・研究問題ワークショップ「本音で語る」では、研究費の問題を取り上げます。
 例年同様、問題群の背景や構造を、私見と腕力の許す範囲で、大雑把に整理してみたいと思います。
 今回はその6回シリーズの2回目です。

 第2回の今回は、日本の研究費制度において昨今その存在感を増している競争的資金と、大学の運営交付金削減の問題について考えます。

1)主な競争的資金
 まず、代表的なものを列挙します。

・科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業
 CREST、ERATO、さきがけ、ACCEL、ACT-C、国際強化支援、ALCA、RISTEX、s-イノベーション、先端計測などいくつかありますが、そのプログラム一覧はこちらのリンクにまとめられています。

・科学技術イノベーション創出基盤構築事業
 JST が窓口になっていますが(こちらを参照)、元々は文部科学省の科学技術振興調整費が改組されたものです。これが「科学技術戦略推進費」となり(こちらも参照)、その後再改組されて、現状のようになりました。

 JST によるもの以外でも、例えば以下のようなものがあります。

・日本医療研究開発機構(AMED) 革新的先端研究開発支援事業
・物質・材料研究機構(NIMS) ナノテクノロジーを活用した環境技術開発
・新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO) 先導的産業技術創出事業(若手研究グラント)
(経済産業省の産業技術研究助成事業から改組)

・厚生労働省 科学研究費
・農林水産省
 研究機関等が応募できる研究資金
 農林水産政策科学研究委託事業
・国土交通省
 建設技術研究開発助成制度
 国土政策関係研究支援事業
・総務省 戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE)

 日本の研究費に関する動向は、総務庁統計局の「統計でみる日本の科学技術研究」から大づかみに把握できます。

2)運営費交付金の問題
 こうした競争的資金の拡充の一方で、大学に交付される運営交付金は年々削減傾向にあります。
 運営費交付金とは、国立大学の場合、正式には「国立大学法人運営費交付金」と称し、国から大学に支給される大学の予算のことを云います。これをもとに研究費や人件費、各種設備の整備費などに充当されます。
 2004 年の国立大学法人化以降、その運営費交付金は余剰金を次年度に繰り越せるようにこそなりましたが、年々減少の一途を辿っています。その減少幅たるや、毎年前年比1%減。その後も金額ベースでの減少は続いています(2004 年が1兆 2,415 億円、2009 年が1兆 1,695 億円、2014 年が1兆 1,123 億円)。
 尤も、その運営費交付金の支給対象になっている大学も、やはり旧帝大(特に東大と京大)への偏りが以前から云われており、その善し悪しはさておき、科研費と同様の傾向があります。

 データ源としては、以下が参考になるでしょう(古いものも混じっています)。

・筑波大学 削減される国立大学予算
・旺文社 教育情報センター 23 年度 国立大学法人運営費交付金
・文部科学省 資料3-1 国立大学法人の現状等について
・財務省 文教・科学技術予算

 他方で、政策的には、ただ国立大学の運営費交付金を減らすだけでなく、これと併せて、文部科学省側も手を打っています。
 2004(平成 16)年以降、文部科学省は中期目標期間を定めて、国立大学法人改革を進めています。現在はその第2期(2010〜2015 年)の最末期に当たり、第1期(2004〜2009 年)で指導させた国立大学法人の変革を更に加速させようとしています。その中で、「グローバル化」「イノベーション機能強化」「人事・給与システムの弾力化」が推進されてきています。
 大学側も手をこまねいているわけでもなく、大学自身も独自で基金を創設したり、寄付講座の設置や設備寄付の受け入れなど、様々な動きを始めています。しかしながら、各大学の基金が集めることの出来ている金額は、例えばアメリカのハーバード大学やスタンフォード大学、英国のケンブリッジ大学(何れも私立大学)に比べれば、日本の東京大学など吹けば飛ぶようなレベルでしかありません(2015 年現在で東京大学基金の残高は約 104 億円。2014 年の私立大学の慶應義塾大学で寄付金収入が約 81 億円。2012 年現在、左記の英米3大学の基金総額は、ケンブリッジ 8,330 億円、ハーバード 3兆 2,800 億円、スタンフォード1兆 9,040 億円;英米のデータはサイエンスポータルのこちらを参照)。

3)競争的資金が増え、運営交付金が減ると何が問題なのか?
 運営交付金削減の政策は、大学に独自財源での運営を求めているように思われます。
 私立大学の多くは、私学助成金(正式名は私立大学等経常費補助金)の支給を国から受けています。2015 年度の総額は 3,180 億円で、金額ベースでは 2001 年度からほぼ横這い、近年は微減です(2001 年で 3,143 億円、2005 年で 3,293 億円、2009 年で 3,217 億円)。それでも、授業料や入試手数料、寄付金(基金等)などで私立大学の財務は成り立っています。
 但し、国立大学の場合は、大学の年間予算に占める運営費交付金と科研費などの助成金の占める割合が大きく、医学部及びその付属病院を抱える場合の病院の収入(診療報酬や手数料など)がそれに次いでいるという状況で、授業料や入学金収入は私立大学よりも多くない場合が多いようです。

 そうなると、何が起こるか?
 シリーズ第1回でも述べましたが、科研費には間接経費の枠があり、その一部は大学の収入になります。運営費交付金が削減され、社会の少子化で入試手数料や授業料の収入が減るとなれば、科研費の間接経費の増収を本気で考えるでしょう。
 その流れは既に現実のものとなっているようで、一部の国立大学で研究者に科研費のノルマが課されているという話があります(一部では、交付金から支給される研究費を、科研費に応募しなければ減らすというペナルティを課している事例もあるようです;例えば、こちらこちらこちらこちらなど)。ただでさえ、科研費の応募件数が昨今増えている現状がありますが、どうやらその一部は国立大学の応募実績作りの口実という側面をもたらしているようです。
 科研費応募の手間が増えることは、研究者にとって研究や教育にかける手間と時間が減ることを意味します。これが中長期的な研究パワーの低下に結びつくことは、ありそうな話です。

 他方、私立大学でも科研費の申請は昨今増えています。
 科研費申請の手間と時間は、国公立、私立の各大学で大差はないようです。

 かてて加えて、JST や AMED 等の大型予算ともなれば、申請や報告などの書類仕事の負担は否が応にも増すことになります。読者の皆さんは、例えば、JST の戦略的創造研究推進事業の申請書や報告書をご覧になったことがあるでしょうか? それらを作成する手間がどれほどのものか、想像してみて下さい(例えば、JST の戦略的想像研究推進事業の事例は、こちらこちらを参照)。個人が研究の片手間で行うのは、現実的にはほぼ無理です。

 それらの研究費自体は、究極的には国民の税金がもとになって成り立っています。
 それだけに、そうした国費財源の研究費を誠実に使うことの重要性は言を俟たないでしょう。
 しかし、そもそも研究費は研究をするためのお金です。研究をするためのお金をせっかくもらって、肝心の研究が満足に出来なかったとしたら、何のための研究費なのでしょうか?

 他方で、研究資金の提供元は、実は国費以外でもそれなりにあります。
 シリーズ第3回に続きます。
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2015年09月20日

研究費問題(1);科研費の問題

 今年のサイエンスアゴラ・研究問題ワークショップ「本音で語る」では、研究費の問題を取り上げます。
 例年同様、問題群の背景や構造を、私見と腕力の許す範囲で、大雑把に整理してみたいと思います。
 今回から6回分のエントリーを使って、それを実施します。

 第1回の今回は、日本の大学やいわゆる国研の研究予算に確たる地位をしめる、文部科学省科学研究費補助金(略称「科研費」)について考えます。

 日本の大学及び国公立の研究機関、独法などにおいて、研究費の財源としてその存在感が最大なのは、ほぼ間違いなくこの科研費でしょう。ご存じの方も多いとは思いますが、その科研費の何たるかをまず述べます。その上で、現状どのような問題点があり、また現場の研究者達がどのような問題意識を抱いているかを知りうる限りで整理します。
 なお、文部科学省のもの以外でも、国による各種の競争的研究資金はいくつかありますが、それは第2回でまとめて触れます。

1)科研費とは何か?
 科研費に関する基礎的な知識は、成書もいくつかあり、また文部科学省日本学術振興会でも公式サイトが設置されていて、誰でも得ることが出来ます。その概要や説明、申請手順などを記したガイドブックは毎年更新され、冊子体でもオンライン(pdf 型式)でも入手できます(今年度版はこちらに)。
 ただ、その全体像を大づかみにでも理解するのは、まとまった時間を取らないとなかなか難しいところです。

 その概略を、大雑把に述べておきます。
 科研費(文部科学省の科学研究費補助金)とは、(「科研費ハンドブック」の記載を借りて述べると)“人文学、社会科学から自然科学まで全ての分野にわたり、基礎から応用までのあらゆる「学術研究」(大学などの研究者の自由な発想に基づく研究)を対象とした唯一の「競争的資金」”です。大学や独法の研究機関など、指定された研究機関に所属する研究者に応募資格があり、常勤か非常勤かは不問です(後述の通り、例外あり)。応募して採択されると2段階の審査(書面、合議)を経て、採択されると翌年度から1〜5年にわたり研究費が支給されます(その種目と年数は後述)。
 財源は国家予算、即ち国民の税金です。予算額として金額ベースでは年々上昇傾向で、平成7(2006)年の約 924 億円から 10 年間でほぼ倍増。その後は伸び率が下がりつつも上昇傾向が続き、平成 27 年(2015)年は 2,273 億円にまでなりました。応募件数も平成2(1990)年の 55,000 件から増加傾向で、平成 17(2005)年以降は伸び悩みつつも、平成 26(2014)年は 96,500 件にまでなりました。採択率は年によって上下しますが、新規の採択率は 20〜25 %程度で推移しています。新規と継続(2年目以降も審査があります)を併せた採択率は年々増加傾向で、平成2年の 34.9 %から平成 26 年の 74.9 %まで増えています。
 種目は対象や内容ごとに細分されており、基盤研究(支給期間3〜5年)、若手研究(同2〜4年)、挑戦的萌芽研究(同1〜3年)、研究活動スタートアップ(同2年以内)などに区分されています。唯一、奨励研究だけは指定の研究機関に所属しないことを条件に、誰でも応募できます(支給期間1年)。各種目に応募するに際しては、研究分野を指定する必要があり、どの学問におけるどの分野で申請するかを研究者自身が細目一覧から選ぶ必要があります。
 多くの場合、支給金は直接経費と間接経費からなり、前者がいわゆる研究費として研究者が使えるお金です(学会出張や調査のための旅費、論文出版等の経費を含む)。後者は、研究環境やの整備や改善のために研究機関(大学、独法などの事務方の部署)が研究者と手分けして使うお金で、備品(研究機器、パソコン、椅子、机、書籍など)の購入や事務職員の人件費などに使われます。
 支給期間終了後には研究成果報告を作成し提出する義務があり、その成果はデータベースに登録されて誰でも見ることが出来ます(科研費データベース「KAKEN」を参照)。
 抜けの多い説明ではありますが、詳しくは成書や科研費公式サイトをご覧下さい。グラフなどもあり、より一層分かりやすいと思います。

2)科研費の制度的変遷
 後述するように「使いにくい」という批判の多い科研費ですが、研究者にとって使いやすい制度にするために、研究者の声を反映させて、長年にわたり少しずつ制度改訂が行われています。
 政府による科学技術基本計画の策定に伴い、その第1期(1996 年〜2000 年)では総額ベースの拡充がなされ、第2期(2001 年〜2005 年)では間接経費が導入されました。第4期(2011 年〜2015 年)では基金化の導入と採択率の改善がなされ、2013 年には調整金の制度もできて、それまで根強い批判のあった年度をまたいでの繰り越しが可能になりました。基金化の制度改訂に当たっては、財務省の強い反対があったことが知られていますが、研究資金の効率的運用に関して声をあげ続けた研究者たちやその他有志の方々、文部科学省関係者の長年の努力が実った格好と云って良いでしょう。
 科研費の基金化に関しては、研究者からは概ね好評のようです(NISTEP の調査による。こちらの資料を参照)。
 ただ、残念な揺り戻しと一見取られかねない変化もあり、科研費の若手研究Aと基盤研究Aの 500 万円以下の部分に関して認められていた基金化部分が無くなるかも知れないという話が持ち上がりました。これに関しては、「必ずしも後退ではない」という声が文部科学省の関係者から出ています(こちらを参照)。

 基金化そのものに関しては、例えば以下をご覧下さい。
・日本学術振興会 科研費の基金化
・文部科学省 科研費の柔軟な使用のための研究機関の取組例

3)科研費の問題点と、研究者の意識
 とはいえ、少なからぬ研究者の方々の先入観として、また現実の問題として、何かと問題点の多い科研費ではあります。

 第1に、単年度予算(会計年度独立原則)に関する認識の問題です。
 年度をまたいでの繰り越しや前借りが出来るようになったことがつい最近という事情もあり、国や地方自治体の予算運用に於ける単年度会計が諸悪の根元という意識は根強いものがあるようです。一応の法的根拠として、よく言われるのは、日本国憲法第 86 条の文面「内閣は、毎会計年度の予算を作成し、国会に提出して、その審議を受け議決を経なければならない」です。しかし、これを根拠に年度内の予算は必ず年度内に使い切らなければいけないという考えは誤解であるという話があります(千葉大学・木村琢磨さんのこちら(pdf 型式)を参照)。冷静に考えれば、株式会社などの一般企業でも、年間の予算や決算を立てるに当たり、繰越金の発生は普通にあります。それが国や地方自治体だと認められない法倫理的根拠は、本当にあるのでしょうか?
 苦労して獲得した科研費の効率的運用のため、止むに止まれずプール金扱いにして不正扱いのそしりを受けた研究者は、かなりの数に上ります。その根強い批判が以前からずっとあり続けたこと、その渦中で苦労した研究者の方々の存在を、我々は無視してはいけないと思います。関係する言説群を拾っておきましょう。

役に立たない科研費
・日経バイオテク
 辻本元教授逮捕に改めて思う競争的資金の全面的基金化の必要性
・「文部科学省が研究費の不正使用防止に関する調査・検討結果を公表」記事へのコメント

 第2に、審査の不透明性と支給先の偏りの問題です。
 以前から、以下のような根強い批判があります。
・「国公立大学の特に旧帝大(端的に東大、京大など)に研究費配分が大きく偏っていて、地方国立大や私立大は不利。」
・「既に名の通った、実績のある研究者やその弟子が通りやすく、新規参入の敷居が非常に高い。」
・「誰がどのように審査しているのか分からず、審査の結果や評価内容も分からないので、申請が手探りになる。」

 実際、ほぼ全く同じ内容の申請をして、ある年は不採択だったのに、2年後や3年後には同じ内容で採択になったという事例は個人的に知る限りでも沢山あり、同じ話を複数の人から見聞しています。また、申請内容の質の善し悪しが採択可否と結びつかないという話も同様で、申請内容の文面の巧拙だけで説明が付かないと思しき事例すら実際にあります(他方、申請の文面を磨くだけで不採択から採択になったという話も、巷の成書にはいくつかあり、評価は難しいところですが)。

 研究費配分の実態としては、大学や研究期間により分野ごとにばらつきがあります(学術振興会の公式サイトで公開されています。こちらを参照)。ただ、旧帝大に多く配分されているのは事実で、東大だけで総額の 11.4 %、旧帝大7校の合計で総額の 39.3 %を占められています(蛇足ながら、理化学研究所は総額の 1.9 %)。

 関連の言説を少しだけ挙げておきます。

公的研究費(科研費)配分の問題点Q&A
・日本学術振興会 私と科研費
 「独創研究を育てる研究費として」
科研費審査のあり方の疑問と問題点
・リバネス 研究者なら科研費がどのように配分されているかくらい知っておきましょう
・BLOGOS 科研費新規採択数から見る国内の研究分野別有力大学・研究機関

 第3に、制度変更が頻回で、その全貌が分かりにくいとされる問題です。
 多様な研究者を対象としているがゆえ、また研究現場の声の反映や毎年の国の財務状況の影響もあるがゆえ、ある程度は仕方のない側面もあるのですが、制度の改訂や改廃がこの 20 年余りの間にかなりありました。制度を設計し運営する方々のご苦労は並々ならぬものがあるとは思いますが、一方で実際の研究現場における研究者や事務員の方々の混乱や不便を招いた実態はあると云わなければいけません。
 実際、大学や研究機関で科研費申請のとりまとめを行う事務担当者の方々は、毎年の制度改訂に合わせてその全体像を熟知しておく必要に迫られ、そのご負担たるや大変なものがあろうと思います。
 現場の研究者にとっても、本職の研究(大学なら教育もある)に伴って発生する副次的な事務仕事に、3〜5年前の知識や経験が大なり小なり役立たない事態が発生するようでは、困ってしまいます。

 関連の言説を1つ挙げておきます。

・言葉にしてみる日記 科研費ハンドブック(研究者用)を読む

 第4に、現場の研究者にとっての物理的及び精神的な負担の大きさの問題があります。
 既述の通り、研究者が獲得した科研費には間接経費も含まれ、その一部(場合によっては大半)は所属する研究機関の収入となります。科研費を獲得する研究者の大半は大学に所属するため、個々の大学にとって、所属する教員が科研費を取得することは、大学の収入が増えることを意味します(こちらを参照)。
 シリーズ第2回で後述しますが、現在の日本の大学において、基盤的な研究費として長らく機能していた運営交付金が年々削減され、競争的資金への依存が高まっています。競争的資金をどれだけ多く獲得できるかが、大学の経営を左右するというほどの状況になってしまいました。その結果、各大学に所属する研究者に科研費獲得のノルマが課され、ただでさえ科学技術の日進月歩をリードすべく研究と教育に邁進しているはずの研究者が、事務仕事に忙殺される事態になっています。
 表立っての言説はなかなか少なく、ここでは拾いませんが、阿鼻叫喚を訴えるとすら言えそうな苦悶の声は各方面から聞こえてきます。

 関連の言説を、一つだけ挙げておきます。

・サイエンストークス「科研費はギャンブル」

 色々と功罪のある科研費ですが、日本の科学研究を押し進めている最も強力な研究資金であるのもまた事実です。
 その実態を、多くの方々に知っていただければとまずは思います。

 シリーズ第2回に続きます。
posted by stsfwgjp at 23:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 科学・技術・社会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年07月09日

今年も開催! 研究問題ワークショップ「本音で語る研究費問題」

 いよいよ今年 10 周年を迎える、日本の科学コミュニケーションの総合見本市「サイエンスアゴラ」。
 時を同じくして、サイエンスアゴラの第1回から続く研究問題ワークショップ「本音で語る」も、その第 10 回を迎えることになりました。
 前身の NPO サイコムジャパン主催から引き継いで、科学研究の負の側面、陰の部分と向き合い続けて我々も 10 年、いやそれ以上...。その第1回の頃から問題意識を持ち続けてきて、今まで取り上げなかった今回のテーマ。今年はいよいよそのテーマ...研究費の問題を扱います。

 現段階で日程も仮決定ですが、ここまで決まっている開催要項を以下に記しておきます。
 どうぞ宜しくお願い致します。

サイエンスアゴラ 2015 出展企画
第 10 回研究問題ワークショップ「本音で語る研究費問題〜幸せに研究するために〜」

主催:横山雅俊
   榎木英介(近畿大医)
   三輪佳子(みわよしこ;フリー)
   #phdjp 科学と社会ワーキンググループ
会場:東京国際交流館プラザ平成 4階・会議室1
日時:11/14(土) 午後(時刻未定)

内容:
 1995年の科学技術基本法制定以来、科学技術の振興は国策となりましたが、大学や研究機関の運営交付金は年々削減され続けており、研究費や研究機関運営に競争的資金への依存が高まっています。研究者のおかれた財政的状況が厳しい場合が多い一方で、大型予算の運用、科研費の運用不正や民間研究費にまつわる利益相反問題など、厄介な問題もあります。
 研究活動も経済現象から自由でないとは言え、有意義な研究活動による実りある成果の社会的共有のためには、研究費の使いやすさと誠実な使用が重要です。それを実現する研究費制度のあり方がどうあるべきかを本音で考えます。
 今回も2部構成で実施し、前半がゲストの話題提供によるカフェ形式のトークセッション、後半が全員参加のワークセッションとします。前半は各種統計データやその分析結果に基づき、現在の日本の研究パワーが低下傾向にある現状とその問題点を考えます。その議論を受けて、後半は参加者の気づきやひらめきを重視する手法を用いて、左記の問題点を打開する術を探索し、提案に繋げます。

 ゲスト登壇者の方々は、現在各方面に鋭意依頼中です。
 決まり次第、随時お知らせしたいと思います。

 また、やや気が早いですが、事前や当日のご協力を各方面の方々にお願いすることになると思います。
 お知らせをお送りした方々におかれては、どうか宜しくお願い申し上げます。

 今年も、有意義な会にして、2次的且つ生産的な波及に繋げるべく、頑張ります。
 当日多くの皆様とお目にかかれることを楽しみにしております。
posted by stsfwgjp at 23:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 科学・技術・社会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする