2015年09月26日

研究費問題(5);日本の科学技術政策の歴史

 今年のサイエンスアゴラ・研究問題ワークショップ「本音で語る」では、研究費の問題を取り上げます。
 例年同様、問題群の背景や構造を、私見と腕力の許す範囲で、大雑把に整理してみたいと思います。
 今回はその6回シリーズの5回目です。

 第5回の今回は、昭和後半以降の日本の科学技術政策の動向の概略を整理します。
 一連の問題群に関しての理解の助けになるはずです。

 手っ取り早くは、以下の各文書から概要を把握できます。

・産総研 科学技術政策の経緯
・日本国際問題研究所 日本の科学技術政策
・東京財団 日本の科学技術政策が抱える課題とは
・国立国会図書館 科学技術政策とは何か
・日本学術会議 「日本の科学技術政策の要諦」について
・山川出版社 科学技術政策

 上記第1者の産総研・神徳さんのメモは、1959(昭和 34)年以降の主要な出来事が年表の形でまとめられており、状況整理に役立ちます。第4者の筑波大・小林信一さんによる論考は国内外の情勢を幅広く組織的網羅的に整理しており、科学技術政策論を学ぶ上でも役立ちそうです。第2者は民間シンクタンク研究員の私論、第3者は東京財団の公開シンポジウムの記録です。第5者の日本学術会議の資料は、国内外の情勢をふまえて、日本が持つべき視座と使命を掲げ、それらをもとに日本の科学技術政策が何を課題に掲げるべきかを述べています。第6者は書籍の紹介記事で、件の書籍は明治期以降の日本の科学技術政策を概観しています。

 イノベーション政策に関しては、以下が参考になるでしょう。

・科学技術・学術政策研究所(NISTEP) 研究開発とイノベーション
・科学技術国際交流センター 「政策のための科学」のための歴史的研究

 文部科学省による文書としては、以下が参考になると思われます。

・文部科学省
 科学技術政策概論
 科学技術白書

 後者の科学技術白書のうち、(平成25)年版の「我が国の科学技術政策を取り巻く動向」には、直近の科学技術イノベーション政策の推進に至る経緯が併せて述べられています。

 科学技術白書の目次や本文、産総研・神徳さんのメモ、筑波大・小林さんの論考を中心に見ていくと、割とすぐに気付くことがあります。
 それは、科学が社会の期待に応えることを求められ、多くの場合課題解決型の学際的で総合的な取り組みを求められていると云うことです。その期待において、その課題解決になるような科学的知見の積み重ねと、成果の社会的な実装が強く希求され、科学や科学者がそれに積極的に関与していくことが求められています。

 科学技術白書の内容の変遷を見てみましょう。平成改元後の内容を概観します。
 研究者業界や知を生み出す環境に問題意識が国策レベルでしっかり向けられるようになってきたのは、この 10 年ほどのことのように思えます。科学技術白書が研究費制度や研究人材の動向を特集したのが平成8年版(1996 年)、オープンサイエンス=開かれた研究社会の意義についてまとめられたのが平成9年版(1997 年)。
 その後、平成 14 年版(2002 年)にイノベーションの話が登場し、平成 15 年版(2003 年)で人材の重要性に関して特集が組まれ、平成 17 年版(2005 年)に社会のための科学技術という考え方が再登場します。平成 19 年版(2007 年)には基礎科学の重要性と科学技術振興の意義についての言及がありますが、平成 20 年版(2008 年)では国際競争で世界各国と伍していくためのイノベーションという考え方が登場し、以後はそれぞれの話題が総花的に巡回して取り上げられているようです。

 それと平行して、1995(平成7)年に科学技術基本法が制定されて以来、5年おきに策定されるようになった科学技術基本計画の内容を見てみましょう。その中には、第3期から含まれるようになった科学コミュニケーションの推進もありますが、第1期(1996〜2000 年)での研究開発への投資拡充、第2期(2001〜2005 年)での研究課題の重点化(生命科学、情報通信、環境、ナノ材料を重点分野、エネルギー、製造技術、社会基盤、フロンティアを基盤分野に策定)や研究システム改革(競争的資金、科研費の間接経費、人材流動性、若手登用など)、第3期(2006〜2010 年)での科学技術イノベーション政策の推進、第4期(2011〜2015 年)での震災復興、イノベーションの具体化、研究組織の産学官連携や地域連携の推進など、黎明期の第1期を除けば概ね「科学技術を使って社会のために何かをする」「そのために制度を整備する」というものになっています。
 改めて、過去の4期分の概要に関して、科学と社会との関係に関わる部分を標語的に整理すると、以下のような感じになるでしょう(今回ご協力いただく田原敬一郎さんから頂いた資料に記載された表現を拝借します)。

第1期;科学技術に関する学習の振興及び理解の増進と関心の喚起
第2期;社会のための、社会の中の科学技術
第3期;社会・国民に支持され、成果を還元する科学技術
第4期;社会と共に創り進める政策の実現

 ふと思えば、第1期の期間中の 1999 年は、ハンガリーのブダペストで世界科学会議(通称ブダペスト会議)が国連教育科学文化機関(UNESCO)と国際科学会議(ICSU)の共催で開催され、これからの科学のあり方、科学技術のあり方を科学者の側から問い直す試みがなされました。その会議で出された世界宣言(科学と科学的知識の利用に関する世界宣言;その全文はこちらに)において、21 世紀の科学の責務として以下の4つの概念が打ち出されました(文部科学省のこちらも参照)。

「知識のための科学」
「平和のための科学」
「開発のための科学」
「社会における科学と社会のための科学」

 大学や研究機関、科学者の社会的使命として、知的探求がもたらす社会的影響は否が応にも大きくなってきています
 ただ、だからといって、それが研究者や研究機関のパフォーマンスを上げる方向に、また研究者にとって研究しやすく、研究機関にとって円滑な運営のしやすいように、常に働いてきたかどうかとなると、どうでしょう?

 シリーズ第6回に続きます。
posted by stsfwgjp at 23:00| Comment(0) | 科学・技術・社会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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