2015年09月20日

研究費問題(1);科研費の問題

 今年のサイエンスアゴラ・研究問題ワークショップ「本音で語る」では、研究費の問題を取り上げます。
 例年同様、問題群の背景や構造を、私見と腕力の許す範囲で、大雑把に整理してみたいと思います。
 今回から6回分のエントリーを使って、それを実施します。

 第1回の今回は、日本の大学やいわゆる国研の研究予算に確たる地位をしめる、文部科学省科学研究費補助金(略称「科研費」)について考えます。

 日本の大学及び国公立の研究機関、独法などにおいて、研究費の財源としてその存在感が最大なのは、ほぼ間違いなくこの科研費でしょう。ご存じの方も多いとは思いますが、その科研費の何たるかをまず述べます。その上で、現状どのような問題点があり、また現場の研究者達がどのような問題意識を抱いているかを知りうる限りで整理します。
 なお、文部科学省のもの以外でも、国による各種の競争的研究資金はいくつかありますが、それは第2回でまとめて触れます。

1)科研費とは何か?
 科研費に関する基礎的な知識は、成書もいくつかあり、また文部科学省日本学術振興会でも公式サイトが設置されていて、誰でも得ることが出来ます。その概要や説明、申請手順などを記したガイドブックは毎年更新され、冊子体でもオンライン(pdf 型式)でも入手できます(今年度版はこちらに)。
 ただ、その全体像を大づかみにでも理解するのは、まとまった時間を取らないとなかなか難しいところです。

 その概略を、大雑把に述べておきます。
 科研費(文部科学省の科学研究費補助金)とは、(「科研費ハンドブック」の記載を借りて述べると)“人文学、社会科学から自然科学まで全ての分野にわたり、基礎から応用までのあらゆる「学術研究」(大学などの研究者の自由な発想に基づく研究)を対象とした唯一の「競争的資金」”です。大学や独法の研究機関など、指定された研究機関に所属する研究者に応募資格があり、常勤か非常勤かは不問です(後述の通り、例外あり)。応募して採択されると2段階の審査(書面、合議)を経て、採択されると翌年度から1〜5年にわたり研究費が支給されます(その種目と年数は後述)。
 財源は国家予算、即ち国民の税金です。予算額として金額ベースでは年々上昇傾向で、平成7(2006)年の約 924 億円から 10 年間でほぼ倍増。その後は伸び率が下がりつつも上昇傾向が続き、平成 27 年(2015)年は 2,273 億円にまでなりました。応募件数も平成2(1990)年の 55,000 件から増加傾向で、平成 17(2005)年以降は伸び悩みつつも、平成 26(2014)年は 96,500 件にまでなりました。採択率は年によって上下しますが、新規の採択率は 20〜25 %程度で推移しています。新規と継続(2年目以降も審査があります)を併せた採択率は年々増加傾向で、平成2年の 34.9 %から平成 26 年の 74.9 %まで増えています。
 種目は対象や内容ごとに細分されており、基盤研究(支給期間3〜5年)、若手研究(同2〜4年)、挑戦的萌芽研究(同1〜3年)、研究活動スタートアップ(同2年以内)などに区分されています。唯一、奨励研究だけは指定の研究機関に所属しないことを条件に、誰でも応募できます(支給期間1年)。各種目に応募するに際しては、研究分野を指定する必要があり、どの学問におけるどの分野で申請するかを研究者自身が細目一覧から選ぶ必要があります。
 多くの場合、支給金は直接経費と間接経費からなり、前者がいわゆる研究費として研究者が使えるお金です(学会出張や調査のための旅費、論文出版等の経費を含む)。後者は、研究環境やの整備や改善のために研究機関(大学、独法などの事務方の部署)が研究者と手分けして使うお金で、備品(研究機器、パソコン、椅子、机、書籍など)の購入や事務職員の人件費などに使われます。
 支給期間終了後には研究成果報告を作成し提出する義務があり、その成果はデータベースに登録されて誰でも見ることが出来ます(科研費データベース「KAKEN」を参照)。
 抜けの多い説明ではありますが、詳しくは成書や科研費公式サイトをご覧下さい。グラフなどもあり、より一層分かりやすいと思います。

2)科研費の制度的変遷
 後述するように「使いにくい」という批判の多い科研費ですが、研究者にとって使いやすい制度にするために、研究者の声を反映させて、長年にわたり少しずつ制度改訂が行われています。
 政府による科学技術基本計画の策定に伴い、その第1期(1996 年〜2000 年)では総額ベースの拡充がなされ、第2期(2001 年〜2005 年)では間接経費が導入されました。第4期(2011 年〜2015 年)では基金化の導入と採択率の改善がなされ、2013 年には調整金の制度もできて、それまで根強い批判のあった年度をまたいでの繰り越しが可能になりました。基金化の制度改訂に当たっては、財務省の強い反対があったことが知られていますが、研究資金の効率的運用に関して声をあげ続けた研究者たちやその他有志の方々、文部科学省関係者の長年の努力が実った格好と云って良いでしょう。
 科研費の基金化に関しては、研究者からは概ね好評のようです(NISTEP の調査による。こちらの資料を参照)。
 ただ、残念な揺り戻しと一見取られかねない変化もあり、科研費の若手研究Aと基盤研究Aの 500 万円以下の部分に関して認められていた基金化部分が無くなるかも知れないという話が持ち上がりました。これに関しては、「必ずしも後退ではない」という声が文部科学省の関係者から出ています(こちらを参照)。

 基金化そのものに関しては、例えば以下をご覧下さい。
・日本学術振興会 科研費の基金化
・文部科学省 科研費の柔軟な使用のための研究機関の取組例

3)科研費の問題点と、研究者の意識
 とはいえ、少なからぬ研究者の方々の先入観として、また現実の問題として、何かと問題点の多い科研費ではあります。

 第1に、単年度予算(会計年度独立原則)に関する認識の問題です。
 年度をまたいでの繰り越しや前借りが出来るようになったことがつい最近という事情もあり、国や地方自治体の予算運用に於ける単年度会計が諸悪の根元という意識は根強いものがあるようです。一応の法的根拠として、よく言われるのは、日本国憲法第 86 条の文面「内閣は、毎会計年度の予算を作成し、国会に提出して、その審議を受け議決を経なければならない」です。しかし、これを根拠に年度内の予算は必ず年度内に使い切らなければいけないという考えは誤解であるという話があります(千葉大学・木村琢磨さんのこちら(pdf 型式)を参照)。冷静に考えれば、株式会社などの一般企業でも、年間の予算や決算を立てるに当たり、繰越金の発生は普通にあります。それが国や地方自治体だと認められない法倫理的根拠は、本当にあるのでしょうか?
 苦労して獲得した科研費の効率的運用のため、止むに止まれずプール金扱いにして不正扱いのそしりを受けた研究者は、かなりの数に上ります。その根強い批判が以前からずっとあり続けたこと、その渦中で苦労した研究者の方々の存在を、我々は無視してはいけないと思います。関係する言説群を拾っておきましょう。

役に立たない科研費
・日経バイオテク
 辻本元教授逮捕に改めて思う競争的資金の全面的基金化の必要性
・「文部科学省が研究費の不正使用防止に関する調査・検討結果を公表」記事へのコメント

 第2に、審査の不透明性と支給先の偏りの問題です。
 以前から、以下のような根強い批判があります。
・「国公立大学の特に旧帝大(端的に東大、京大など)に研究費配分が大きく偏っていて、地方国立大や私立大は不利。」
・「既に名の通った、実績のある研究者やその弟子が通りやすく、新規参入の敷居が非常に高い。」
・「誰がどのように審査しているのか分からず、審査の結果や評価内容も分からないので、申請が手探りになる。」

 実際、ほぼ全く同じ内容の申請をして、ある年は不採択だったのに、2年後や3年後には同じ内容で採択になったという事例は個人的に知る限りでも沢山あり、同じ話を複数の人から見聞しています。また、申請内容の質の善し悪しが採択可否と結びつかないという話も同様で、申請内容の文面の巧拙だけで説明が付かないと思しき事例すら実際にあります(他方、申請の文面を磨くだけで不採択から採択になったという話も、巷の成書にはいくつかあり、評価は難しいところですが)。

 研究費配分の実態としては、大学や研究期間により分野ごとにばらつきがあります(学術振興会の公式サイトで公開されています。こちらを参照)。ただ、旧帝大に多く配分されているのは事実で、東大だけで総額の 11.4 %、旧帝大7校の合計で総額の 39.3 %を占められています(蛇足ながら、理化学研究所は総額の 1.9 %)。

 関連の言説を少しだけ挙げておきます。

公的研究費(科研費)配分の問題点Q&A
・日本学術振興会 私と科研費
 「独創研究を育てる研究費として」
科研費審査のあり方の疑問と問題点
・リバネス 研究者なら科研費がどのように配分されているかくらい知っておきましょう
・BLOGOS 科研費新規採択数から見る国内の研究分野別有力大学・研究機関

 第3に、制度変更が頻回で、その全貌が分かりにくいとされる問題です。
 多様な研究者を対象としているがゆえ、また研究現場の声の反映や毎年の国の財務状況の影響もあるがゆえ、ある程度は仕方のない側面もあるのですが、制度の改訂や改廃がこの 20 年余りの間にかなりありました。制度を設計し運営する方々のご苦労は並々ならぬものがあるとは思いますが、一方で実際の研究現場における研究者や事務員の方々の混乱や不便を招いた実態はあると云わなければいけません。
 実際、大学や研究機関で科研費申請のとりまとめを行う事務担当者の方々は、毎年の制度改訂に合わせてその全体像を熟知しておく必要に迫られ、そのご負担たるや大変なものがあろうと思います。
 現場の研究者にとっても、本職の研究(大学なら教育もある)に伴って発生する副次的な事務仕事に、3〜5年前の知識や経験が大なり小なり役立たない事態が発生するようでは、困ってしまいます。

 関連の言説を1つ挙げておきます。

・言葉にしてみる日記 科研費ハンドブック(研究者用)を読む

 第4に、現場の研究者にとっての物理的及び精神的な負担の大きさの問題があります。
 既述の通り、研究者が獲得した科研費には間接経費も含まれ、その一部(場合によっては大半)は所属する研究機関の収入となります。科研費を獲得する研究者の大半は大学に所属するため、個々の大学にとって、所属する教員が科研費を取得することは、大学の収入が増えることを意味します(こちらを参照)。
 シリーズ第2回で後述しますが、現在の日本の大学において、基盤的な研究費として長らく機能していた運営交付金が年々削減され、競争的資金への依存が高まっています。競争的資金をどれだけ多く獲得できるかが、大学の経営を左右するというほどの状況になってしまいました。その結果、各大学に所属する研究者に科研費獲得のノルマが課され、ただでさえ科学技術の日進月歩をリードすべく研究と教育に邁進しているはずの研究者が、事務仕事に忙殺される事態になっています。
 表立っての言説はなかなか少なく、ここでは拾いませんが、阿鼻叫喚を訴えるとすら言えそうな苦悶の声は各方面から聞こえてきます。

 関連の言説を、一つだけ挙げておきます。

・サイエンストークス「科研費はギャンブル」

 色々と功罪のある科研費ですが、日本の科学研究を押し進めている最も強力な研究資金であるのもまた事実です。
 その実態を、多くの方々に知っていただければとまずは思います。

 シリーズ第2回に続きます。
posted by stsfwgjp at 23:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 科学・技術・社会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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