2014年09月24日

研究倫理(3):研究倫理、研究公正とは何だろうか?

 今年のサイエンスアゴラ・研究問題ワークショップ「本音で語る」では、研究不正問題を取り上げます。
 一歩高みに登って、問題の全体像を見ながら、何が本当の問題なのかについて考え、解探索のための模索の端緒にしたいと思います。

 今回は、これまでの記事を受けて、研究倫理とは何か?研究公正とは何か?という論点に関して、おおよそまとめておきたいと思います。

 理研 STAP 騒動過去の事件の事例集における問題意識は、研究公正という問題群に属すると考えられます。
 この「研究公正」とは、一般の方々にとってはやや耳慣れない言葉かも知れませんが、科学研究の営みにおける手続きの正当さや研究内容の正しさに対する批判的検証の営みを意味します。具体的には、
・実際に実験や計算、野外調査やメタ解析などの作業を実施し、生のデータを適切に採取すること
・計算や測定、分析などの結果を、第3者が検証可能な方法で処理すること
・以上の内容を、誰が見ても理解し追跡できるように公表すること
...に、ほぼ集約されるでしょう。

 これらを適正に行うことが、なぜ重要なのでしょうか?

 根源的には、科学研究や得られた知なるもの一般に対する、社会的信頼の確保という意味があるでしょう。
 例えば医薬品開発や食品開発、乗用車や精密機会などの工業製品開発において、それらが正しく動作し、人々の生活に寄与する為には、正しい手順で作られ、結果や手順が正しいことが必要です。
 それらを作ること、動かすことを担う人材の育成のためには、教材が必要です。教科書や参考書の記載は、その知の確立された度合も含めて、公正であることが必要です。
 科学研究を遂行するには、大抵の場合、過去の知の蓄積に学ぶ必要に迫られます。その際、その知や知的体系が公正でなかったら、後世の人材が参照するに足るものに作り替えるのは、並大抵のことではないでしょう。信頼できる知的体系であってこそ、能力開発や業績の上積みが適切に行えるのです。故意の嘘と間違いは異なるとは言え、後者は手続きが適正であればこそ、適正に修正できるのです。

 数々の研究不正は、それらを台無しにしてしまうリスクを伴うのです。

 日本国内でも、世界的にも、研究公正への取り組みは実は盛んです。
 例を挙げればそれなりに沢山ありますが、日本の例としては名古屋大学大阪大学のものを、諸外国の取り組みに関しては JST の松澤孝明さんによる論文2報にまとまったもの(「諸外国における国家研究公正システム(1)」「同(2)」)を紹介するにとどめます。

 通常、この研究公正という考え方は、研究倫理とは区別されることが多いものです。
 筆者の私見になりますが、広い意味では、「科学研究(自然科学に限らない)に関わる人たちの間の関係のあるべき姿を考える」という、当為の科学コミュニティ像を考える批判的営みが、研究倫理と言えるでしょう。
 この見地に立てば、研究公正は研究倫理の重要な一部と言うことが出来るでしょう。

 科学社会学や科学技術社会論などの関係者の間では、通常、研究倫理と言えば、ヒトや生物を対象にした生命科学の研究における、生命の尊厳の維持に関する問題(生命倫理)を指すことが多い(理研の取り組みの例をあげておきます)ですが、広い意味では技術倫理の文脈で、科学技術の研究開発における過程での社会との齟齬や、生み出された知や製品、思考様式がもたらす価値衝突を含む場合もあるようです。そのあたりの問題群の整理は、現状やや混乱しているように筆者には見えますが、問題群の所在は確固たるものだと思われます。

 昨年のサイエンスアゴラ 2013 では、広い意味での研究倫理の一部として、生命倫理の問題を扱いました(こちらの開催報告を参照)。その裾野の広さに関しては、考えれば考えるほど際限ないものが感じられます。しかし、根源的には「生命への畏敬」をどうやって大切にして生命科学の研究をしていくべきなのかという論点に集約され、一連の価値衝突や研究素材の取扱い方の問題の定式化も、その文脈から出来るものです。

 研究公正の問題も、同様であると思われます。
 根源的には、公正な手続きによって、科学の知の正しさをどうやって保証していくのかという論点に集約されるでしょう。そして、やっぱりそこにはある種の価値衝突や齟齬があります(STAP 騒動の記事の 3) をご参照下さい)。それをどうしていくのかが社会から問われており、また科学コミュニティはこれを(コミュニティレベルで)自問自答しなければいけないと、筆者は考えます。
posted by stsfwgjp at 23:11| Comment(0) | TrackBack(0) | 科学・技術・社会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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