2012年09月30日

研究問題ワークショップ「本音で語る」の来歴(1)

 今年で7回目を迎えるサイエンスアゴラ。その歩みとともに、研究問題ワークショップ『本音で語る』も7回目を数えるに至りました。
 このエントリーでは、過去6回のおよその内容を振り返り、どんな歩みをたどったのかを改めて回顧してみようと思います。今回は、その前編です。


・第1回:本音で語る研究倫理問題(2006 年)
 当時のエントリーでは、NPO 法人サイエンスコミュニケーション(サイコムジャパン)の企画で実施しました。パンフレットの宣伝文は、以下の通りです。

 近年、研究成果の捏造や研究費の不正使用が大きな問題となっており、科学者への不信が高まっている。しかし、個の問題に対する科学者たちの意見を聞くことは少ない。そこで本セッションでは、匿名性などに配慮しつつ、誰でも自由にこの問題に意見を言える場を提供し、21 世紀の科学者像について探る機会としたい。

 2部構成で、前半はゲストを招いてのトークセッション、後半は来場者全員を交えてのワークセッションという構成にしました。この構成は、第1回の本企画から今に至るまでずっと同じです。
 また、一般来場者が発言する際に、固有名詞や所属、本名を伏せて発言することを許容しました。これは扱う問題の性格上、特定の文脈で弱い立場にある人の権利や立場を保護しながら、問題の所在や構造を明らかにするために必要と考えてのことで、これも以後ずっと踏襲しています。

 ゲストには、中村直樹さん(科学新聞社)、中島達雄さん(読売新聞科学部)、大須賀荘さん(理化学研究所)をお招きして、それぞれ話題提供を頂きました。中村さんからは、日本の科学研究費の制度とその問題点について、中島さんからは、松本和子教授の研究費不正事件こちらも参照)に関しての取材体験談を、それぞれお話し頂きました。それらをうけて、大須賀さんからは理化学研究所の研究プライオリティ会議の取り組みについて、ご紹介を頂きました。
 後半のワークセッションでは、特段の仕掛けを設けず、本音トークの大討論会にしました。既に前半のトークセッションにおける質疑の段階でも議論が白熱し、怒号さえ飛び交うこともありました。研究不正と研究費不正の問題は分けて論じるべきという意見もある一方で、それぞれの問題における単純ならざる背景も明らかになりました。研究不正に関しては、研究者の意識〈知的誠実さ、データの正しい取り方、研究素材の取り扱いなど〉のみならず、現在の若手研究者を取り巻くキャリア問題の厳しさゆえの過当競争や、分野によっての競争の激しさなども背景としてありうることが話題に上りました。研究費不正に関しては、予算の単年度性の問題や、繰り越し可能になっても手続きの煩雑さゆえそれがやりにくいこと、研究費の用途に関する制限ゆえの資金としての使いにくさの問題など、やはり研究者の意識だけではどうにもならない面が存在することが明らかになりました。
 主に研究者や研究行政従事者、研究組織運営の関係者などを対象にしたセッションでしたが、オープンな場で議論出来たことは有意義であったと思います。


・第2回:本音で語るポスドク問題(2007 年)
 当時も、NPO 法人サイエンスコミュニケーション(サイコムジャパン)の企画で実施しました。
 公式ページ上の宣伝文を転載します。

 昨今話題のポストドクターの就職問題。ウェブ上であれこれ議論が交わされていますが、一向に解決に向かいません。そこで、関心がある人が一同に介し、言いたいことを思いっきり言う場を設けました。

 当時は、主催者より依頼を受けて、「オーガナイザー通信」なるものも執筆しました。出展者の顔が見えるような取り組みは、その後のサイエンスアゴラ開催報告などでも踏襲されていますが、この通信記事はその走りの一つと言えます

 やはり、当日は2部構成にして、前半はゲストを交えてのトークセッション、後半は来場者全員を交えてのワークセッションとしました。なお、前半と後半の間に、初めての試みとしてスピークアウトを取り入れました。これは全員が順番にマイクの前で一言ずつ思ったことを言うという手法でした。ほぼ全ての方に発言していただきましたが、順番が回ってくる直前に逃げるように会場を去る人もいて、その点では残念でした(と共に、今後の回の運営において検討課題となりました)。

 ゲストは、三浦有起子さん(科学技術政策研究所(当時))、中島達雄さん(読売新聞科学部)のお2人をお招きしました。三浦さんからはポスドク問題の背景や構造に関しての経緯と共に問罪の所在を提示していただき、それをうけて中島さんからはその解決に向けてのユニークな試案を提示していただきました。
 後半のトークセッションは、前回と同様に全員を交えての大討論会としました。その当座で、フューチャーラボラトリーの橋本昌隆さんから、ポスドク問題は国策の失敗だという主意のご発言を頂き、サイコム側の一同と問題意識を共にする場面もありました(橋本さんの見解に関しては、例えばこちらこちらを参照)。
 ただ、当座の来場者には意識の高い大学院生が多く来場したものの、肝心のポスドクの来場者は極めて少なく、来場したポスドクの意見も「自分が頑張って何とかするしかない」と言った程度の精神論が目立ち、問題の所在を構造的に理解してマクロにもミクロにも問題を理解し、解決に結びつけるという議論には、残念ながらなりませんでした。ここではポスドク問題の何たるかに関しては論じませんが、背景としてはこちらが参考になると思います。それとともに、問題の渦中にある人がこうした場に来て発言するということの難しさも痛感し、それ自体が問題の根深さの一面であるということも実感したところです。

 ポスドク問題に関する取り組みは、サイコム時代以来の有志で色々とその後続けており、先般、サイコム代表理事(当時)が後年執筆したこうした書籍の形で大きな一段落を迎えました。この著作が 2011 年の科学ジャーナリスト賞を受賞したことは、多くの方々がご存知の通りです。


・第3回:本音で語る研究問題〜研究問題 ML 10 周年に寄せて〜(2008 年)
 やはり、NPO 法人サイエンスコミュニケーション(サイコムジャパン)の企画で実施しました。公式ページ上のリンクはこちらを御覧下さい。
 昨年の「本音で語るポスドク問題」を受けて、科学研究の世界にいる「文脈上の政治的弱者」の存在...端的に学部生、大学院生、ポスドクなどが問題意識を持って声を上げにくいことが実感され、新たな人的ネットワークを作って少しずつでも動いていこうという思いを新たにして、今回の企画に繋がりました。
 折しも、サイコムジャパンの出自となった生化学若い研究者の会の有志で作った、ネット上の議論と情報交換の場“研究問題メーリングリスト”が設立('98 年2月)から 10 周年を迎えました。この 10 年間も、研究者業界の中では、その社会との接点におけるものも含めて大きな動きが色々とありました。他方で、メーリングリストという媒体の可能性とともに、その現実的な機能的限界も痛感するに至り、新たな人的ネットワークの構築も課題として見えてきました。
 そこで、若手研究者を取り巻く今後を見据えて、今までの 10 年間の研究問題の動向を振り返り、今後 10 年間をどうしていこうか?を考えようということで、この企画を実施しました。

 登壇したのは、当時サイコム代表理事の榎木英介さん。その前座に横山(当時サイコム会員)が少し前振りでしゃべりました。
 そもそも「研究問題って何」的な話の詳細は別のエントリーに改めますが、この研究問題 ML での議論の積み重ねと、そこから発生した活動によって、各種のシンポジウム開催や、新聞及び科学雑誌への数々の投書、そして NPO 法人サイエンスコミュニケーションの設立、サイコムによる過去のサイエンスアゴラでの出展という形での問題の認知と更なる議論の発展などがありました。

 前半のトークセッションは横山と榎木さんが行い、後半のワークセッションではHN: sivad さんによる新たな人的ネットワーク作りとその意義に関する導入を経て、そうしたネットワークを作って何をしていこうかという議論を重ねました。
 折しも、直前のサイコム出展の企画「日本の科学技術コミュニケーションはいかにあるべきか? 第四期科学技術基本計画に向けた提言」(企画のサイトはこちら)ともリンクする形になり、新たな科学技術基本計画の策定に若手研究者の現場の声を反映していこうという潮流も生まれました(企画担当者による報告はこちらに)。

 その後、これらをうけてサイコムの事業として産総研との共同事業により、当ワークショップは博士ネットワークミーティングという企画に発展しました(第1回第2回の要綱は、それぞれのリンク先を参照)。そこで討議された内容の一部は、'09 年3月の科学技術社会論学会の学会共同ワークショップ「国の科学技術・イノベーション戦略と学協会の役割〜日本型研究・政策コミュニティの形成に向けて」(こちらも参照)において、横山の発表した「みんなで育てる未来の科学〜第4期基本計画に向けて〜」という形で一定の結実を見ました。


 第4回以降に関しては、別エントリーにします。
posted by stsfwgjp at 22:30| Comment(0) | TrackBack(0) | 科学・技術・社会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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