2012年09月30日

研究問題ワークショップ「本音で語る」の来歴(2)

 今年で7回目を迎えるサイエンスアゴラ。その歩みとともに、研究問題ワークショップ『本音で語る』も7回目を数えるに至りました。
 このエントリーでは、過去6回のおよその内容を振り返り、どんな歩みをたどったのかを改めて回顧してみようと思います。今回は、その後編です。


・第4回:本音で語る“大学とは何か”(2009 年)
 今回も、NPO 法人サイエンスコミュニケーションの企画で実施しました。公式サイトの企画ページはこちらです。開催趣旨は以下の通りです。

 ポスドク問題や大学院重点化、研究成果の公開や産学官連携など、大学を取り巻く状況が激変するなか、大学がそもそも何を目指し、何をしているかを考える試みは稀でした。大学の社会的役割や、大学出身者の能力や可能性について、本音トークで討論します。

 今回は、博士号、修士号などの学位を持つ人がどういう能力や可能性を持つのか。そして、そういった人材や知を育む大学はどのように社会の中で立ち振る舞い、役割を果たしていくべきなのか。学位を能力で定義し、そこから大学の役割を問うていく。それに真っ正面からぶつかっていく企画を組みました。

 今回も、前半はゲストを招いてのトークセッション、後半は全員を交えてのワークセッションにしました。今回からは、初の試みを幾つか行っています。
 まず、ネットワーキングチャット Twitter を用いての企画のテキストベースの生中継を実施しました。その模様はこちらにあります。ハッシュタグを付けた発言を連続することにより、それらを用いてのまとめページの作成という形で、real timeの情報発信と、企画内容の2次利用可能且つ迅速な取りまとめが出来て、その意味で大いに有意義な取り組みでした。
 次に、ネット連動型の企画進行として、事前にアンケート調査の項目を設けました。問は3つ用意しました。リンク先を御覧下さい。結果はこちらの通りです。データ数は僅少でしたが、少しでも意味の有る情報を拾えたでしょうか。
 もう一つ、今回は後半のワークセッションで KJ 法をもちいたグループワークを実施しました。サイエンスアゴラ史上初の平日開催ゆえに厳しい状況を覚悟しましたが、終わってみれば 20 人以上の方にお越し頂き、活発に議論して頂きました。本当は博士ネットワークミーティングの際に採用したオープンスペース法を採用したつもりでしたが、そこまでは巧く機能しなかったようで、その1点だけは残念でした。

 前半のゲストは、大隅典子さん(東北大学医学研究科)、永山國昭さん(岡崎統合バイオサイエンスセンター、サイエンスアゴラ実行委員長)、上田昌文さん(NPO 法人市民科学研究室)の3人です。それぞれの方からの話題提供の概要は、こちらの前半部にあります。大隅さんには大学で現に教育、研究に携わる立場から、永山さんには学術界を俯瞰する立場から、上田さんは科学と社会の接点から、それぞれお話を頂きました。話の内容は、前出の togetter によるまとめから再構成しました。
 それを受けての後半のワークセッションは、2つの島に別れてのグループワークになりました。その状況は、やはりこちらの後半部にまとめてあります。島その1では、博士号の問題として、博士号に何を期待するかという内容の議論が展開されました。島その2では、大学問題として、その教育の在り方に関する問題提起や議論がなされました。

 主催者都合により1時間半という厳しい時間設定の運営になりましたが、中身の濃いワークショップには出来たと思います。しかし、やはり1時間半で討議型、解探索型のワークショップをやり切るのは至難です。その後毎年、主催者の事務局と時間枠に関する交渉に悩まされることになります。


・第5回:本音で語る科学技術政策〜Our Future and STS〜(2010 年)
 今回からは、サイコムジャパンを離れて、有志による企画実施に変貌しました。ただ、サイコム時代以来から横山が引き継いで、シリーズ企画として今なお続けています。今回の公式サイトにおける企画ページはこちらです。
 企画の主意は、以下の通りです。

 昨年末の行政刷新会議「事業仕分け」で、科学技術政策に関する大きな議論が巻き起こりました。またその一方で、科学技術政策に関する社会的な議論や取り組みは、未だに不十分なままです。本企画では、過去の科学技術政策が現在の科学技術にどのように影響しているかを確認しつつ、科学技術のあるべき姿を本音で議論します。

 実際の問題意識の設定としては、

 '80 年代後半からみた当時の未来としての現在='10 年代における“未来の科学技術”として、実現したものやしなかったものが何であり、それを裏打ちするインフラや制度が何であったかを理解する。そして、それをヒントに、いまから見て 30 年後の未来における科学技術がどのようなものであり、それを実現するためにどういった制度やインフラ等が必要なのかを考える。

・・・と言う感じです。
 そのようなわけで、「本音で語る」シリーズにおいて、史上初めて前向きな内容で問題意識を設定してみました。

 今回も、前半が2名の話題提供者によるトークセッション、後半が参加者全員を交えてのワークセッションという2部構成にしました。全体を通して、シナリオプランニングの考え方に基づき、フューチャーサーチの形態をとりました。
 前半の話題提供者は、ゲストとして招いた久保田淳さん(東京大学薬学系研究科)と、共同主催者の1人である千葉磨玲さん(総合研究大学院大学)にお願いしました。久保田さんには「自分の思う20年後の未来の科学技術」というテーマで語っていただき、それを受けて千葉さんからは20年前の科学技術白書の記載内容のまとめと当時の世情からみた、当時からの未来としての現在について話題提供をして頂きました(大筋で、このページに添った内容になっています)。
 後半のトークセッションでは、今回初めてワールドカフェの形式を採用し、全来場者による自主的な議論に任せることにしました。とはいえ、有志による当座の進行役となって下さる方々を企画者側で事前にお願いし、数人の方々に協力を仰ぎました。
 当座では3つの島が出来て、それぞれに自然発生的な議論を重ね、それなりのまとまった内容を得たようです。話題の一部を挙げると、エネルギー問題と人口問題の関係を考えること、テクノロジーと「人間の変革」(例えば、社会における能力発揮の在り方の変化)の関係、技術と倫理のトレードオフの関係などが取り扱われました。

 未来予測という観点からは、ある設定したテーマに沿って「現在の情報をなるべく幅広く集める」→「未来に仮説を立てる」→「仮設の実現可能性を検証する」という流れに沿った手続きを踏むことが重要です。その手続きの一端に添って、可能な未来像を探る試みは出来たと思います。ただ、いかんせん全体で1時間半という主催者都合の制約は余りにも厳しく、その意味で成果の面に関しては今回も厳しいワークショップでした。
 なお、この回も当日の Twitter による生中継を実施し、その模様をこちらに残してあります。また、今回は空振りに終わりましたが、ネット連動型で進行する試みは、今回も行いました。
 テーマを前向きにした分、一般参加型のプログラムに変革できて、それでいて研究問題という枠で大きな問題を考えるという試みに出来たことは、意味のあることだったと思います。それだけに、時間不足を強いられるプログラム設定を余儀なくされたことは非常に残念でした。


・第6回:本音で語る“夢の薬”〜2010 年問題をぶっ飛ばせ〜(2011 年)
 今回も、有志一同による開催という体裁を採り、そして当日のゲスト登壇依頼もネット経由の直球勝負という綱渡りでした。それでも、多くの関係者の方々のご支援により、どうにか開催にこぎ着けることが出来ました。今回の公式サイトの企画ページはこちらです。企画の概要は以下の通りです。

 医薬品2010年問題(医薬品の一斉特許切れ)に関連して、後発医薬品にまつわる医療経済、新薬開発の難しさなど、実は問題山積…。製薬関係者、医療従事者、患者は各々どうすれば良いのか?を本音で考えます。

 今回は、研究者業界と社会との相互作用を考える上で、初めて具体的な題材を取り上げました。2011 年の開催にして「医薬品 2010 年問題」とは如何に?という向きはあろうかと思いますが、医薬品開発におけるブロックバスター問題(別名「医薬品 2010 年問題」)は、2010 年前後に顕在化する科学に関連した知のもたらす構造的な社会問題と理解することが出来ます。その背景は企画理念の形でこちらに記してあります。

 毎年恒例のごとく、今回も前半はトークセッション、後半はワークセッションの2部構成にしました。
 前半のトークセッションでは、HN『薬作り職人』さん(製薬企業関係者)と岩堀禎廣さん(株式会社オクトエル;医療関係コンサルタント)のお2人をゲストに招き、お2人によるトークショーという形式をとりました。医薬品開発のハイリスクハイリターンぶりを背景に、どんな論点や社会的影響があるのかを製薬の現場、臨床医療の現場を知り尽くしたお2人に存分に語っていただきました。トークショーの後の質疑でも、問題の構造的な根深さに対する理解は深まったと思います。
 それを受けて、後半のワークセッションでは、参加者のひらめきや気付きを重視する特殊な手法『全脳思考法』を用いてのグループワークを実施しました。当座では2つの島が出来て、それぞれのテーマでワークを進めました。島その1では「どんな薬が欲しいか」の話、島その2では「自分自身が研究開発に携わるとしたら」の話。それぞれに独自の物語が出来て、そこから問題の論点に迫るというワークを、ある程度まで進めることが出来ました。

 今回は、事務局との交渉を通じて正規の枠で2時間確保することが出来て、どうにか所定の内容を意味有るものに出来たと思います。2時間でも厳しいとは思いますが、これだけあれば最低限何とかやり切れます。
 今回も、当日の模様は twitter にて生中継を実施しました。その模様をこちらにまとめてあります。また、開催報告もこちらに置いてあります。
 本番当日は、サイエンスアゴラ史上初の荒天という厳しい条件下で迎えましたが、それにも関わらず 30 人ほどの方々にお越し頂き、大変盛り上がりました。
posted by stsfwgjp at 23:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 科学・技術・社会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

研究問題ワークショップ「本音で語る」の来歴(1)

 今年で7回目を迎えるサイエンスアゴラ。その歩みとともに、研究問題ワークショップ『本音で語る』も7回目を数えるに至りました。
 このエントリーでは、過去6回のおよその内容を振り返り、どんな歩みをたどったのかを改めて回顧してみようと思います。今回は、その前編です。


・第1回:本音で語る研究倫理問題(2006 年)
 当時のエントリーでは、NPO 法人サイエンスコミュニケーション(サイコムジャパン)の企画で実施しました。パンフレットの宣伝文は、以下の通りです。

 近年、研究成果の捏造や研究費の不正使用が大きな問題となっており、科学者への不信が高まっている。しかし、個の問題に対する科学者たちの意見を聞くことは少ない。そこで本セッションでは、匿名性などに配慮しつつ、誰でも自由にこの問題に意見を言える場を提供し、21 世紀の科学者像について探る機会としたい。

 2部構成で、前半はゲストを招いてのトークセッション、後半は来場者全員を交えてのワークセッションという構成にしました。この構成は、第1回の本企画から今に至るまでずっと同じです。
 また、一般来場者が発言する際に、固有名詞や所属、本名を伏せて発言することを許容しました。これは扱う問題の性格上、特定の文脈で弱い立場にある人の権利や立場を保護しながら、問題の所在や構造を明らかにするために必要と考えてのことで、これも以後ずっと踏襲しています。

 ゲストには、中村直樹さん(科学新聞社)、中島達雄さん(読売新聞科学部)、大須賀荘さん(理化学研究所)をお招きして、それぞれ話題提供を頂きました。中村さんからは、日本の科学研究費の制度とその問題点について、中島さんからは、松本和子教授の研究費不正事件こちらも参照)に関しての取材体験談を、それぞれお話し頂きました。それらをうけて、大須賀さんからは理化学研究所の研究プライオリティ会議の取り組みについて、ご紹介を頂きました。
 後半のワークセッションでは、特段の仕掛けを設けず、本音トークの大討論会にしました。既に前半のトークセッションにおける質疑の段階でも議論が白熱し、怒号さえ飛び交うこともありました。研究不正と研究費不正の問題は分けて論じるべきという意見もある一方で、それぞれの問題における単純ならざる背景も明らかになりました。研究不正に関しては、研究者の意識〈知的誠実さ、データの正しい取り方、研究素材の取り扱いなど〉のみならず、現在の若手研究者を取り巻くキャリア問題の厳しさゆえの過当競争や、分野によっての競争の激しさなども背景としてありうることが話題に上りました。研究費不正に関しては、予算の単年度性の問題や、繰り越し可能になっても手続きの煩雑さゆえそれがやりにくいこと、研究費の用途に関する制限ゆえの資金としての使いにくさの問題など、やはり研究者の意識だけではどうにもならない面が存在することが明らかになりました。
 主に研究者や研究行政従事者、研究組織運営の関係者などを対象にしたセッションでしたが、オープンな場で議論出来たことは有意義であったと思います。


・第2回:本音で語るポスドク問題(2007 年)
 当時も、NPO 法人サイエンスコミュニケーション(サイコムジャパン)の企画で実施しました。
 公式ページ上の宣伝文を転載します。

 昨今話題のポストドクターの就職問題。ウェブ上であれこれ議論が交わされていますが、一向に解決に向かいません。そこで、関心がある人が一同に介し、言いたいことを思いっきり言う場を設けました。

 当時は、主催者より依頼を受けて、「オーガナイザー通信」なるものも執筆しました。出展者の顔が見えるような取り組みは、その後のサイエンスアゴラ開催報告などでも踏襲されていますが、この通信記事はその走りの一つと言えます

 やはり、当日は2部構成にして、前半はゲストを交えてのトークセッション、後半は来場者全員を交えてのワークセッションとしました。なお、前半と後半の間に、初めての試みとしてスピークアウトを取り入れました。これは全員が順番にマイクの前で一言ずつ思ったことを言うという手法でした。ほぼ全ての方に発言していただきましたが、順番が回ってくる直前に逃げるように会場を去る人もいて、その点では残念でした(と共に、今後の回の運営において検討課題となりました)。

 ゲストは、三浦有起子さん(科学技術政策研究所(当時))、中島達雄さん(読売新聞科学部)のお2人をお招きしました。三浦さんからはポスドク問題の背景や構造に関しての経緯と共に問罪の所在を提示していただき、それをうけて中島さんからはその解決に向けてのユニークな試案を提示していただきました。
 後半のトークセッションは、前回と同様に全員を交えての大討論会としました。その当座で、フューチャーラボラトリーの橋本昌隆さんから、ポスドク問題は国策の失敗だという主意のご発言を頂き、サイコム側の一同と問題意識を共にする場面もありました(橋本さんの見解に関しては、例えばこちらこちらを参照)。
 ただ、当座の来場者には意識の高い大学院生が多く来場したものの、肝心のポスドクの来場者は極めて少なく、来場したポスドクの意見も「自分が頑張って何とかするしかない」と言った程度の精神論が目立ち、問題の所在を構造的に理解してマクロにもミクロにも問題を理解し、解決に結びつけるという議論には、残念ながらなりませんでした。ここではポスドク問題の何たるかに関しては論じませんが、背景としてはこちらが参考になると思います。それとともに、問題の渦中にある人がこうした場に来て発言するということの難しさも痛感し、それ自体が問題の根深さの一面であるということも実感したところです。

 ポスドク問題に関する取り組みは、サイコム時代以来の有志で色々とその後続けており、先般、サイコム代表理事(当時)が後年執筆したこうした書籍の形で大きな一段落を迎えました。この著作が 2011 年の科学ジャーナリスト賞を受賞したことは、多くの方々がご存知の通りです。


・第3回:本音で語る研究問題〜研究問題 ML 10 周年に寄せて〜(2008 年)
 やはり、NPO 法人サイエンスコミュニケーション(サイコムジャパン)の企画で実施しました。公式ページ上のリンクはこちらを御覧下さい。
 昨年の「本音で語るポスドク問題」を受けて、科学研究の世界にいる「文脈上の政治的弱者」の存在...端的に学部生、大学院生、ポスドクなどが問題意識を持って声を上げにくいことが実感され、新たな人的ネットワークを作って少しずつでも動いていこうという思いを新たにして、今回の企画に繋がりました。
 折しも、サイコムジャパンの出自となった生化学若い研究者の会の有志で作った、ネット上の議論と情報交換の場“研究問題メーリングリスト”が設立('98 年2月)から 10 周年を迎えました。この 10 年間も、研究者業界の中では、その社会との接点におけるものも含めて大きな動きが色々とありました。他方で、メーリングリストという媒体の可能性とともに、その現実的な機能的限界も痛感するに至り、新たな人的ネットワークの構築も課題として見えてきました。
 そこで、若手研究者を取り巻く今後を見据えて、今までの 10 年間の研究問題の動向を振り返り、今後 10 年間をどうしていこうか?を考えようということで、この企画を実施しました。

 登壇したのは、当時サイコム代表理事の榎木英介さん。その前座に横山(当時サイコム会員)が少し前振りでしゃべりました。
 そもそも「研究問題って何」的な話の詳細は別のエントリーに改めますが、この研究問題 ML での議論の積み重ねと、そこから発生した活動によって、各種のシンポジウム開催や、新聞及び科学雑誌への数々の投書、そして NPO 法人サイエンスコミュニケーションの設立、サイコムによる過去のサイエンスアゴラでの出展という形での問題の認知と更なる議論の発展などがありました。

 前半のトークセッションは横山と榎木さんが行い、後半のワークセッションではHN: sivad さんによる新たな人的ネットワーク作りとその意義に関する導入を経て、そうしたネットワークを作って何をしていこうかという議論を重ねました。
 折しも、直前のサイコム出展の企画「日本の科学技術コミュニケーションはいかにあるべきか? 第四期科学技術基本計画に向けた提言」(企画のサイトはこちら)ともリンクする形になり、新たな科学技術基本計画の策定に若手研究者の現場の声を反映していこうという潮流も生まれました(企画担当者による報告はこちらに)。

 その後、これらをうけてサイコムの事業として産総研との共同事業により、当ワークショップは博士ネットワークミーティングという企画に発展しました(第1回第2回の要綱は、それぞれのリンク先を参照)。そこで討議された内容の一部は、'09 年3月の科学技術社会論学会の学会共同ワークショップ「国の科学技術・イノベーション戦略と学協会の役割〜日本型研究・政策コミュニティの形成に向けて」(こちらも参照)において、横山の発表した「みんなで育てる未来の科学〜第4期基本計画に向けて〜」という形で一定の結実を見ました。


 第4回以降に関しては、別エントリーにします。
posted by stsfwgjp at 22:30| Comment(0) | TrackBack(0) | 科学・技術・社会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする